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つなぎ売り(クロス取引)は、株価が下がる心配をせずに株主優待だけを受け取る方法です。 ただし配当では使えません。受け取るどころか手出しになります。 金額は配当の20.315%。配当が2,000円なら406円が出ていきます。
まず結論:あなたはやるべきか、やらなくていいか
自分がどちらに当てはまるかで決まります。3秒で判定できます。
| こういう人 | 判定 | なぜ |
|---|---|---|
| 株主優待がほしい 権利日だけ持って、値下がりは避けたい | やる価値あり | 優待は満額もらえる。コストは事前に計算できる |
| 配当がほしい 高配当株を買うつもりでいる | やらなくていい | 配当の20.315%が必ず持ち出しになる |
| NISAで持っている | そもそも使えない | NISA株は信用取引にも現渡にも使えない |
| ずっと持ち続けたい | やらなくていい | つなぎ売りは権利日をまたぐ数日だけの技 |
つなぎ売りは優待をタダで取る技であって、配当をタダで取る技ではありません。 当ブログの読者のように高配当株を買う方は、使う場面がほとんどありません。 ここまでで判断がついた方は、読み終えていただいて構いません。
この先は、なぜそうなるのかを知りたい方向けです。 優待でつなぎ売りを使う予定がある方は、コストの内訳(3章)と逆日歩の注意(4章)まで読んでください。
1. つなぎ売りは「買う」と「借りて売る」を同時にやる
そもそも信用売りとは、株を借りて売ることです
信用売りは、証券会社から株を借りて、その株を売る取引です。 持っていない株を売れるのは、借りているからです。
借りたものは返します。つなぎ売りでは、買っておいた同じ株をそのまま渡して返します。
株の借金です。お金を借りるのではなく、株そのものを借ります。 株価が上がると返すのが苦しくなり、下がると楽になります。 ふつうに株を買ったときと、損得が真逆になると覚えてください。
買いと借金を同時に持つので、株価が動いても損得ゼロ
つなぎ売りでは、同じ銘柄を同じ株数だけ、現物で買い、信用で売ります。 手元に株が1つあり、同時に株1つぶんの借金を負っている状態です。
株価が100円上がったとします。持っている株は100円得をします。 同時に、返さなければならない株も100円高くなるので100円損をします。 足すとゼロです。下がったときも同じで、損と得が入れ替わるだけです。
値動きは消えます。ところが株主優待をもらう権利は、買ったほうの株に残ります。 この状態のまま権利付最終日(優待をもらえる人が決まる日)をまたぐのが、つなぎ売りです。
手順は3ステップ
| いつ | やること |
|---|---|
| 権利付最終日の寄付前 (よりつき=その日の最初の取引)まで | 同じ銘柄・同じ株数で「現物買い」と「一般信用の新規売建(うりだて=信用売りを始めること)」を発注する |
| 権利落ち日 (翌営業日)以降 | 信用売りの建玉(たてぎょく=返していない借り分)を「現渡」で返済する |
| その後 | 優待と配当が届く。同時に配当相当額の支払いが差し引かれる |
最後の「現渡(げんわたし)」は、買ってある株をそのまま渡して、株の借金を返す方法です。 市場で売り買いをしないので、返すときの株価がいくらであっても損得は出ません。 買った株と借りた株が、ここで相殺されて消えます。
権利付最終日がいつかは銘柄の決算月で決まります。2026年の日付は 権利付最終日カレンダーにまとめています。
2. 配当は20.315%の持ち出しになる
ここが本題です。優待と違い、配当は打ち消し合いません。
借りた株にも、本当の持ち主がいます
信用売りで借りた株は、どこかの誰かが持っていた株です。 その持ち主は、本来なら配当を受け取れるはずでした。
ところが、あなたがその株を売ってしまったので、持ち主のもとに配当が届きません。 そこであなたが肩代わりして払います。 これを配当相当額(配当落調整金)といいます。
つまりつなぎ売りの最中は、配当を受け取ると同時に、配当を払ってもいる状態です。 同じ額なら差し引きゼロで済みます。ところが、そうなりません。原因は税金です。
もらうときは税を引かれ、払うときは引かれない
現物側と信用売り側で、配当の扱いが次のように違います。
| どちら側 | 配当の扱い | 金額 |
|---|---|---|
| 現物買い | 配当金を受け取る(20.315%の税金が引かれる) | 配当の79.685% |
| 信用売り | 配当相当額を支払う(税金は引かれない) | 配当の100% |
| 差し引き | −20.315% | |
もらう配当だけが、税金のぶん20.315%小さくなります。 払うほうは満額です。この差がそのまま持ち出しになります。
配当が2,000円なら、手元に入るのは1,594円。いっぽう払うのは2,000円です。 差の406円が出ていきます。優待は買ったほうの株にしか付かず肩代わりも要らないので、 優待は取れて、配当は取れないという結果になります。
持ち出しは配当額に比例します。100株あたりで計算すると次のとおりです。
- 中間配当20円 → 受け取り1,594円・支払い2,000円・持ち出し406円
- 中間配当25円 → 受け取り1,993円・支払い2,500円・持ち出し507円
- 中間配当30円 → 受け取り2,391円・支払い3,000円・持ち出し609円
高配当株ほど、つなぎ売りとの相性は悪くなります。 (税額は円未満を切り捨てて計算しています)
3. かかるコストは4つ。10万円の取引で427円
つなぎ売りで出ていくお金は4種類です。株価1,000円の株を100株(10万円)、年間配当40円・中間配当20円という条件で計算します。
| コスト | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 貸株料(かしかぶりょう) =株を借りるレンタル料(2日分) | 10万円 × 年3.90% × 2日 ÷ 365 | 21円 |
| 現物の買付手数料 | 手数料無料のコース | 0円 |
| 信用売建の手数料 | 手数料無料のコース | 0円 |
| 現渡の手数料 | — | 0円 |
| 配当の差額 | 2,000円 × 20.315% | 406円 |
| 合計 | 427円 | |
コストの95%は配当の差額です。貸株料は21円しかありません。 「つなぎ売りは手数料が安い」は本当ですが、安いのは手数料だけです。
優待の価値がコストを上回るかで判断する
この427円に対して優待の価値がいくらかを比べます。1,000円のクオカードなら573円の得です。 優待が500円分なら73円の得にしかなりません。配当が多い銘柄ほど、この計算は厳しくなります。
- 制度信用:年1.10%
- 一般信用「無期限」:年1.10%
- 一般信用「短期」:年3.90%
- 一般信用「いちにち信用」:年0.00%(ただし当日中に決済するためつなぎ売りには使えません)
4. 制度信用を使ってはいけない理由は逆日歩
信用取引には制度信用と一般信用の2種類があります。 制度信用は証券取引所のルールで動く仕組み、一般信用は証券会社が独自に用意する仕組みです。 つなぎ売りで使うのは一般信用です。 制度信用で売ると、逆日歩(ぎゃくひぶ・品貸料)がかかることがあるからです。
逆日歩は、売り注文が多くて株が足りなくなったときに、売り手が支払う株のレンタル料です。 問題は金額ではなく、取引する時点では発生するかどうかも、いくらになるかもわからないという点にあります。
逆日歩の最高料率は通常1株あたり1円が上限ですが、配当や優待の権利確定日の前は2倍・4倍に引き上げられます。 株券の調達が難しい場合は、臨時措置で10倍になることもあります。
楽天証券が挙げている例では、200円の株を2,000株売り建てた場合、逆日歩1円で2,000円、10倍の料率なら2万円です。 優待の価値を軽く超えます。
一般信用なら逆日歩は発生しません。つなぎ売りをするなら一般信用を選んでください。 ただし在庫が限られており、人気銘柄は権利付最終日が近づくと尽きます。
5. NISA口座の株は、つなぎ売りに使えない
NISA口座の株式はつなぎ売りに使えません。理由は2つです。
- NISA口座では信用取引ができない。NISAは現物取引だけが対象です
- NISA口座の株式は現渡の対象外。信用取引の担保(代用有価証券)にもなりません
つなぎ売りをするなら、現物側も課税口座(特定口座・一般口座)で買う必要があります。
裏を返すと、NISAで高配当株を持つ人には、つなぎ売りを使う場面がほとんどありません。 NISAでは配当が非課税で満額受け取れるので、わざわざ20.315%を払いに行く理由がないからです。 NISAで配当を非課税にする設定は株式数比例配分方式のデメリットは3つで解説しています。
6. まとめ
- 信用売り=株を借りて売ること。買いと同時に持つと値動きが消える
- 借りた株の持ち主に配当を肩代わりするので、配当だけは打ち消し合わない
- もらうのは税引後79.685%、払うのは満額100%=20.315%の持ち出し
- コスト合計427円のうち95%は配当の差額。手数料ではない
- 制度信用は逆日歩の金額が事前にわからないので使わない
- NISA口座の株式は信用取引にも現渡にも使えない
優待をタダで取る話と、配当をタダで取る話は別物です。混ぜて考えると、配当が多い銘柄ほど損をします。 配当が目的なら、普通に現物で買って持ち続けるほうが手取りは多くなります。
※本記事の手数料・貸株料・逆日歩の仕組みは、楽天証券・松井証券・SBI証券の公開情報を2026年9月13日に確認したものです。 貸株料の年率は楽天証券の信用取引手数料ページ、配当落調整金の計算式(買建84.685%・売建100%・所得税源泉徴収相当額15.315%)は松井証券、 逆日歩の上限と計算例は楽天証券、NISA口座の株式が現渡の対象外である点はSBI証券の記載に基づきます。 料率・取扱いは証券会社と時期によって変わります。取引の前にご自身の口座のある証券会社で最新の条件を確認してください。 税率20.315%は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計です。
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