累進配当とDOEをやさしく解説|「減配しない方針」はどこまで信じていいか

累進配当は「減配せず、配当を維持または増やす」という会社の方針です。 DOEは「利益ではなく純資産に対して配当を決める」仕組みです。 どちらも業績が悪い年に配当が減りにくくなりますが、法的な約束ではありません。

📌 この記事でわかること
  • 累進配当が効くのは「利益が減った年」だけという理由
  • 累進配当を掲げる三菱商事が、過去に減配している事実
  • DOEの計算式と、配当性向との違い
  • DOE導入で配当が70円→120円になった実例と、その検算
  • 自分でDOEを確かめる手順と、数字がズレる原因

累進配当とは|「減配しない」と会社が宣言する方針

累進配当とは、減配せず、配当を維持または増配するという株主還元方針です。 中期経営計画や決算説明資料で会社が自ら掲げます。

方針の価値が出るのは、業績が悪化した年です。方針のない会社は、利益が半分になれば配当も半分にできます。 累進配当を掲げる会社は、その年も配当を据え置くか増やします。

実例があります。三菱商事(8058)の2021年3月期です。 純利益が1,726億円まで落ち込み、前期比で約7割減となった年に、それでも増配を通しました。 利益が3分の1以下になっても配当を下げない。この1回が、方針の信頼度を決めています。

累進配当は約束ではない|三菱商事も過去に減配している

同じ三菱商事は、2016年3月期に1株70円から50円へ減配しています。 資源価格の急落でLNG・鉄鉱石などに減損を計上し、最終赤字1,494億円となった年です。

⚠️ 方針は会社がいつでも見直せる

累進配当は会社が自ら掲げる方針であり、法的な義務ではありません。経営環境が変われば、方針そのものを撤回できます。「累進配当だから絶対に減らない」と考えず、減配のリスクは残る前提で持ってください。

方針を掲げていない会社も多くあります。ソフトバンク(9434)は高い配当を続けていますが、累進配当は掲げていません。 掲げていないから危ない、という単純な話ではありません。掲げているかどうかを事実として確認するのが、投資家側の作業です。

確認する場所は決まっています。

  1. 会社のIRページで「株主還元方針」または「配当方針」を開く
  2. 中期経営計画の資料内を「累進」「DOE」「配当性向」で検索する
  3. 文言が「累進配当を継続する」なのか「安定的な配当を目指す」なのかを見る

3番目が要点です。「安定的」「継続的」という言葉は、減配しないという意味ではありません。 NTT(9432)は連続増配を続けていますが、方針の表現は「継続的な増配」であり、累進配当という言葉は使っていません。

DOEとは|利益ではなく「純資産」に対して配当を出す仕組み

DOE(Dividend On Equity ratio・株主資本配当率)は、年間の配当総額 ÷ 自己資本で計算します。 1株あたりで言えば1株配当 ÷ BPS(1株あたり純資産)です。

よく使われる配当性向との違いは、分母だけです。

指標計算式分母が動く要因
配当性向配当 ÷ 純利益その年の利益。景気で大きく振れる
DOE配当 ÷ 自己資本これまで積み上げた純資産。急には減らない

分母が変わるだけで、配当の安定度が変わります。利益は1年で7割減ることがありますが、純資産が1年で7割減ることはめったにありません。 DOEを採用した会社の配当は、利益の振れに引きずられにくくなります

この3つの指標は、次の式でつながっています。

📐 覚えておくと使える式
  • DOE = 配当性向 × ROE

ROEは「純資産をどれだけ利益に変えられたか」を示します。 つまりROEが低い会社ほど、同じDOEを達成するのに高い配当性向が必要になります。ここが後で効いてきます。

DOEを導入すると配当はどう変わるか|立川ブラインドの実例

立川ブラインド工業(7989)は2026年2月に「DOE4.0%を下限とする」方針を発表し、配当を70円から120円へ引き上げました。 実際の配当推移を見ます(出典:IRBANK)。

決算期1株配当配当性向
2015年12月期15円21.2%
2018年12月期23円19.3%
2021年12月期30円20.4%
2024年12月期46円31.0%
2025年12月期70円43.4%
2026年12月期(予想)120円

2015年から2021年までの配当性向は20%前後で止まっています。利益は出ているのに配当に回していなかった時期です。 そこからDOE方針の導入で、1年で70円→120円(1.71倍)まで増えました。

会社の言う「DOE4.0%」が本当かどうかは、自分で確かめられます。

🧮 検算(2026年8月17日時点のデータ)
  • BPS(1株あたり純資産)=2,869.61円
  • DOE = 120円 ÷ 2,869.61円 = 4.18%(方針の下限4.0%を満たしている)
  • ROE=6.02%なので、1株利益は 2,869.61円 × 6.02% = 172.75円
  • 配当性向に換算すると 120円 ÷ 172.75円 = 69.5%

注目すべきは最後の行です。DOE4.18%は、配当性向に直すと69.5%にあたります。 利益基準で「配当性向70%まで出します」と宣言する会社はほとんどありません。高すぎるからです。 しかしDOE基準なら、同じ水準の配当が「4%」という控えめな数字で表現されます。

立川ブラインドがこれをできる理由は、自己資本比率84.68%という厚い純資産です。 利益に対して純資産が大きい会社ほど、DOE基準の配当は大きくなります。

DOEが向く会社・注意が必要な会社

DOEは万能ではありません。向く会社の条件は2つです。

  • 自己資本比率が高い(配当の原資になる純資産が厚い)
  • ROEが低め(利益基準だと配当が伸びないので、純資産基準に変える意味がある)

逆に、次の2点は買う前に確認してください。

⚠️ DOEの2つの落とし穴

1つ目:赤字でも配当が出る。DOEは利益と連動しないため、赤字の年でも純資産を取り崩して配当を払います。株主にはありがたい一方、会社の純資産は確実に減ります。

2つ目:純資産が減れば配当額も減る。DOEの率が同じでも、分母の自己資本が減れば配当額は下がります。「DOE4%維持」は「配当額の維持」ではありません。

もう一点、ROEとの関係も見ておきます。DOE=配当性向×ROEなので、ROEが下がると、同じDOEを保つのに必要な配当性向は上がります。 立川ブラインドはROE6.02%で配当性向69.5%です。仮にROEが4%まで下がれば、DOE4%を維持するには配当性向100%が必要になります。利益を全額配当に回す計算です。

当ブログで分析したDOE採用銘柄

DOEの水準と決め方は会社ごとに違います。当ブログで分析した銘柄を並べます。

銘柄(コード)公表している配当方針
立川ブラインド工業(7989)DOE4.0%を下限・配当120円以上
あいホールディングス(3076)DOE6%または配当性向50%の高い方
未来工業(7931)配当性向50%またはDOE3%の高い方
竹本容器(4248)DOE4.0%目途
セイノーホールディングス(9076)DOE4%以上

「DOE◯%または配当性向◯%の高い方」という書き方に注目してください。この形式は、DOEが配当の下限として働きます。 利益が伸びた年は配当性向基準で配当が増え、利益が落ちた年はDOE基準が下支えします。読者にとっては、単純なDOE指定より有利な設計です。

自分でDOEを確かめる手順

  1. 証券会社のアプリかIRBANKで、その銘柄のBPS(1株あたり純資産)を調べる
  2. 1株配当 ÷ BPS を計算する。これがDOEの概算値
  3. 会社のIRが公表するDOEと比べる

手順3で数字が合わないことがあります。分母の取り方が違うためです。 会社は株主資本を分母にしますが、連結の純資産には子会社の非支配株主持分が含まれることがあり、その分だけ分母が大きくなってDOEは小さく出ます。

実例で見ます。セイノーホールディングス(9076)の方針は「DOE4%以上」ですが、 2026年8月18日時点のBPS 2,826.63円と予想配当104円で計算すると3.68%になります。 この差は計算基準の違いから生じます。数字が合わないときは、会社のIR資料でDOEの定義を確認してください。自分の計算が間違っているとは限りません。

最後に便利な関係を1つ。PBRが1倍のとき、株価とBPSが等しくなるためDOE=配当利回りになります。 セイノーはPBR1.00倍で、DOE3.68%・配当利回り3.68%と一致しました。PBRが1倍を下回る銘柄は、配当利回りがDOEより高くなります。

よくある質問

累進配当とDOE、どちらが安心ですか?

性格が違います。累進配当は「金額を下げない」約束に近い方針、DOEは「純資産の一定割合を配ります」という計算ルールです。 DOEは純資産が減れば配当額も減るため、金額の維持を重視するなら累進配当のほうが直接的です。両方を掲げる会社もあります。

累進配当を掲げる会社が減配したらどうなりますか?

法的な罰則はありません。株価は下がる可能性が高く、それが実質的な歯止めになっています。 方針の撤回は決算資料で発表されるため、保有銘柄の決算説明資料には毎回目を通してください。

DOEが高い銘柄を選べばいいですか?

DOEの高さだけで選ばないでください。DOE=配当性向×ROEなので、DOEが高い会社は配当性向も高いことが多く、利益に対する負担は重くなります。 買う前に見る5つの数字で、配当性向と自己資本比率を必ず確認してください。

まとめ

累進配当もDOEも、不景気の年に配当が減りにくくなる仕組みです。ただし法的な約束ではなく、会社はいつでも方針を見直せます。

確認する作業は3つです。①その会社が方針を掲げているかIR資料で確かめる、②DOEなら1株配当÷BPSで自分で計算する、③配当性向に換算して無理のない水準か見る。 この3つを通せば、方針の言葉だけに頼らずに判断できます。

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【免責事項】本記事は情報提供のみを目的としており、特定の銘柄・金融商品への投資を推奨するものではありません。記載した配当方針は各社が公表しているものであり、会社の判断で変更されることがあります。BPS・ROE等の数値は記載時点のものです。企業の財務数値は決算ごとに変動するため、投資判断にあたっては必ず最新の決算短信・有価証券報告書をご確認ください。株式投資には株価変動・減配・元本割れのリスクがあります。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。当ブログは投資助言業者ではありません。